十訓抄 第一 人に恵を施すべき事 ====== 1の27 小松内府賀茂祭見むとて車四五両ばかりにて一条大路に・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 小松内府((平重盛))、「賀茂祭見む」とて、車四五両ばかりにて、一条大路に出で給へり。物見車はみな立ち並べて、隙間(すきま)もなし。 「いかなる車か、退けられんずらん」と、人々、目をすましたるに、ある便宜の所なる車どもを引出だしけるを見れば、みな人も乗らぬ車なりけり。かねて見所を取りて、人を煩らはさじのために、空車(むなぐるま)を五両立て置かれたりけるなり。 そのころの内府の綺羅(きら)にては、いかなる車なりとも、争ひがたくこそありけめども、六条の御息所の旧(ふる)き例も、よしなくや思え給ひけむ。さやうの心ばせ、情深し。 ===== 翻刻 ===== 小松内府賀茂祭見ムトテ、車四五両斗ニテ一条大路 ニ出給ヘリ、物見車ハ皆立ナラヘテスキマモナシイカ ナル車カノケラレンスラント人々目ヲスマシタルニ、或便 宜ノ所ナル車共ヲ引出シケルヲ見レハ、皆人モ乗ヌ 車ナリケリ、兼テ見所ヲ取テ人ヲ煩ハサシノタメ ニ、ムナ車ヲ五両立ヲカレタリケル也其頃ノ内府ノ キラニテハ、イカナル車ナリトモアラソヒカタクコソ有/k59 ケメトモ、六条ノ御息所ノ旧キ例モヨシナクヤ思エ給 ケム、サヤウノ心ハセ情フカシ、/k60