十訓抄 第一 人に恵を施すべき事 ====== 1の13 近き御世に五節のころゆかりにふれて誰とかやの局に・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 近き御世に、五節のころ、ゆかりにふれて、誰とかやの局に、ある夜、「女房のやむごとなき、忍びて参りたる」と聞こしめして、「いかで御覧ぜむ」と思しめしけるままに、にはかに押し入らせおはしけるに、とりもあへず、灯を人の吹き消ちたりければ、御懐より櫛(くし)をいくらともなく取り出でて、おこしたる火にくべさせ給ひたりければ、明々(あかあか)としてよく御覧ぜられけり。 御心の風情、いとやさしかりけり。 ===== 翻刻 ===== 近キ御世ニ五節ノ比ユカリニフレテ誰トカヤノ局ニア ル夜、女房ノヤムコトナキ忍テマイリタルト聞食テ、 イカテ御覧セムト思メシケルママニ、俄ニヲシ入セ御座 ケルニ、トリモアヘス灯ヲ人ノ吹ケチタリケレハ、御/k35 懐ヨリ匣ヲイクラトモナク取出テ、ヲコシタル火ニ クヘサセ給タリケレハ、明々トシテヨク御ラムセラレケ リ、御心ノ風情イトヤサシカリケリ/k36