十訓抄 第一 人に恵を施すべき事 ====== 1の5 わが朝には山陰中納言筑紫へ下り給ひける道に・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== わが朝には、山陰中納言((藤原山蔭))、筑紫へ下り給ひける道に、鵜飼の殺さんとしける亀を、買ひて放ちてけり。 その後、若君の二つばかりなるを具し給へるを、継母、乳母に心を合せて、とりはづしたるあやまちのやうにて、海に落し入れつ。 中納言、「あさまし」と思ふほどに、放ちつる亀、その児を甲に乗せて、舟のはたに置きたりければ、取上げてけり。このこと、如無僧都((底本「如夢僧都」。今昔物語集などにより訂正。))の物語とて、人、ことに知れり。細かに書かず(([[text:k_konjaku:k_konjaku19-29|『今昔物語集』19-29]]参照))。 ===== 翻刻 ===== ノ命ヲイケテ彼酬ヲエタリ、吾朝ニハ/k16 山蔭中納言筑紫ヘ下給ケル道ニ、鵜飼ノコロサント シケル亀ヲカヒテハナチテケリ、其后若君ノ二ツハカ/k16 リナルヲ具シ給ヘルヲ、継母乳母ニ心ヲ合セテ、トリ ハツシタルアヤマチノヤウニテ、海ニオトシ入ツ中納言浅 猿ト思フ程ニ、ハナチツル亀、ソノチコヲ甲ニ乗テ舟 ノハタニ置タリケレハ取アケテケリ、此事如夢僧 都ノ物語トテ人コトニシレリコマカニ書ス、蜂ト云/k17