今物語 ====== 第41話 後拾遺を撰ばれるとき秦兼方といひける随身・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 後拾遺を撰ばれるとき、秦兼方といひける随身   去年(こぞ)見しに色も変はらず咲きにけり花こそ物は思はざりけれ といふ歌を詠みて、撰ぶ人のもとに行て、「この歌入らむ」と望みけるに、「花こそといへるが、犬の名に似たる」と難じけるを聞きて、立ちざまに、「この殿は((「とのは」は底本「ことのは」。諸本により訂正))、勅撰など承はるべき人にては、おはせざりけるものを。『花こそ宿のあるじなりけれ』といふ歌もあるは」と言ひかけて、いとはしたなかりけり。 ===== 翻刻 ===== 後拾遺をえらはれる時秦兼方といひける随身 こそ見しに色もかはらす咲にけり花こそ物はおもはさりけれ といふ哥をよみてえらふ人のもとに行て此哥いらむと 望けるに花こそといへるかいぬの名に似たると難じける をききてたちさまにこのことのは勅撰なとうけたまはる へき人にてはおはせさりける物をはなこそやとのあるし也 けれといふ哥もあるはといひかけていとはしたなかりけり/s26r