今物語 ====== 第14話 秦公春といひける随身宇治の左大臣殿につかうまつりけるが・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 秦公春といひける随身、宇治の左大臣殿((藤原頼長))につかうまつりけるが、御沓を参らせけるが、御沓の敷きに千鳥を描かれたりけるを見て、   沓のうらにも飛ぶ千鳥かな と言ひたりけるを、とりつぐ殿上人も、物も言はざりけるに、大臣殿(おほいどの)、しばし御沓を履き給はで((底本「たまひて」。松平文庫本・内閣文庫本・群書類従本により訂正。))、   難波なるあしの入江を思ひ出でて と、仰せられたりける。いとやさしかりけり。 ===== 翻刻 ===== 秦公春といひける随身宇治の左大臣殿につかふまつ りけるか御くつをまいらせけるか御くつのしきに千鳥 をかかれたりけるをみて くつのうらにもとふ千鳥かな といひたりけるをとりつく殿上人も物もいはさり けるにおほいとのしはし御くつをはきたまひて 難波なるあしの入江をおもひいてて とおほせられたりけるいとやさしかりけり/s11l