[[index.html|一言芳談抄]] 巻之上
====== 44 ある時仰せらるる年ごろ死を怖れざる理を好み習ひつる力にて・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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ある時仰せらるる((敬仏房の言葉。[[ndl_ichigon036]]参照。))、「年ごろ死を怖れざる理(ことわり)を好み習ひつる力にて、この所労も少しよきやうになれば、『死なでやあらんずらむ』と肝のつぶるるなり。さればこそ、御房たちの、『籠負ひ一つも、よくして持たん』としあひ給ひたるをば、制(せい)し奉れ。ただ今は何事なきやうなれども、つひには生死(しやうじ)の余執(よしふ)となるべきなり。しかれば、あひかまへて、つねにこの身を厭ひ憎みて、死をも願ふ意楽(いげう)を好むべきなり。
後世のことは、ただしづかに案ずるにあるなり。昔の坂本((続群書類従本等の「坂東」が正しいか。))の人、京(きやう)に長居しつれば、臆病になるなり。これ、後世者(ごせじや)の才学(さいがく)なり。身しづかに心澄むなどいふことは、いささかなれども、名利(みやうり)を離れての上のことなり。しかるを、幽玄なる楼にうそぶきたるばかりをもて、心の澄むと執(しう)するがゆゑに、独住(どくぢゆう)の人多くは僻事(ひがごと)にしなすなり」。
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===== 翻刻 =====
或時(あるとき)仰(おほせ)らるる。年来(としごろ)死(し)ををそれざる理をこのみ。なら
ひつる力(ちから)にて。此所労もすこしよき様(やう)になれば。しな
でやあらん。すらむと。きものつぶるる也。さればこそ御房(ばう)
達(たち)の。かこ負(おい)一もよくしてもたんとしあひ給たるをは
。制(せい)したてまつれ。ただいまはなに事なき様なれとも
。つゐには生死(しやうじ)の余執(よしう)と成べき也。しかればあひかまへて
つねに此身をいとひにくみて。死をもねがふ意楽(いらく)をこ
のむべき也。後(ご)世の事は。ただしつかに案ずるにあるなり/ndl-16r
むかしの坂本(さかもと)の人。京(きやう)になかゐしつれば。臆病(おくびやう)になる也
。これ後世者(ごせじゃ)の才学(さいかく)也。身しづかに心すむなどいふ事
は。いささかなれども。名利(みやうり)をはなれてのうへの事也。然(しかる)を
幽玄(ゆうけん)なる楼(ろう)にうそふきたるばかりをもて。心のすむと
執(しう)するがゆへに。独住(どくじう)の人おほくは。ひがことにしなす也/ndl1-16l
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/2583390/1/16