発心集 ====== 第七第8話(83) 道寂上人、長谷に詣で道心を祈る事 ====== ===== 校訂本文 ===== 元興寺に、伊賀の聖道寂といふ人ありけり。因果の理(り)に暗からざりければ、深く仏道を思へり。 年若くて、長谷((長谷寺))に参りて、道心を祈り奉りけり。夢中に僧ありて、示していはく、「道心は体なし。ただ、かくのごときの心を道心といふ」とのたまふとぞ見えたりける。 すなはち、世を遁(のが)れのがれ、頭(かしら)おろし、所々修行しける後には、飛鳥寺((元興寺))の辺(へん)に庵を結び、座禅・念仏して、さしたる勤めとては、小阿弥陀((阿弥陀経))一遍を読みける。 これ、同じく往生を遂げたりける。 ===== 翻刻 ===== 道寂上人詣長谷祈道心事 元興寺ニ伊賀ノ聖道寂ト云人アリケリ。因果ノ 理ニクラカラザリケレバ。深ク仏道ヲ思ヘリ。年若テ 長谷ニ参テ道心ヲ祈奉リケリ。夢中ニ僧アリテ 示テ云。道心ハ体ナシ。只如此ノ心ヲ道心ト云トノ 給フトソ見タリケル。則世ヲノガレ。頭ヲロシ所々修 行シケル後ニハ飛鳥寺ノ辺ニ菴ヲ結ヒ坐禅念仏/n19l シテサシタル勤トテハ小阿弥陀一返ヲヨミケル。是 同往生ヲ遂タリケル/n20r