発心集 ====== 第五第11話(58) 目上人、法成寺供養に参り、堅固道心の事 ====== ===== 校訂本文 ===== 河内国に、目聖(もくしやう)とて、貴き人ありけり。 御堂入道殿((藤原道長))、法成寺作り給ひて、御供養ありける日、参りて拝みけるに、事の儀式、仏前の飾り、まことに心も及ばず。 宇治殿((藤原頼通))、その時の関白にて、こと行ひておはします。座に肩ならぶべき人 もなく、めでたく見えければ、「人界に生まるとならば、一の人こそいみじかりけれ」と、ほどほどののしる。 百司、雲霞のごとく囲繞(ゐねう)し、乱声(らんしやう)ののしりて、至り給ふ時、「いみじ」と思える関白、ものならず思えて、さきの思をあらためて、「いかにも国王にはしかざりけり」と見る間に、金堂に入らせ給ひて、仏を拝み奉り給ひける時なむ、「なほし、仏ぞ上もなくおはしましける」と思えて、いとど道心を固めたりける。 かの妙荘厳王のたぐひにことならず。いと賢き思ひはかりなるべし。 ===== 翻刻 ===== 目上人参法成寺供養堅固道心事 河内国ニ目聖トテ。タウトキ人有ケリ。御堂入道殿法 成寺ツクリ給テ。御供養アリケル日参テ拝ミケルニ。 事ノ儀式仏前ノカザリ誠ニ心モ及バス。宇治殿其時/n23r ノ関白ニテ事ヲコナヒテオハシマス座ニ肩ナラブベキ人 モナク目出度ミヱケレバ。人界ニ生ルトナラハ。一ノ人コ ソイミジカリケレト。ホドホドノノシル百司雲霞ノ如ク ヰネウシ。乱声ノノシリテ至リ給フ時。イミジト覚ヘ ル関白モノナラズ覚ヘテ。サキノ思ヲアラタメテ。イカニ モ国王ニハシカザリケリトミル間ニ。金堂ニイラセ給 ヒテ仏ヲ拝ミ奉リ給ケル時ナム猶シ仏ゾ上モナク オハシマシケルト覚ヘテ。イトド道心ヲカタメタリケル。 彼妙荘厳王ノタグヒニコトナラズ。イト賢キ思ヒハカ リナルベシ/n23l