平中物語 ====== 第37段 またこの男一つをの家に従姉妹どもぞよき女どもにてある・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、一つをの家に、従姉妹(いとこ)どもぞ、よき女どもにてある。 初めはよろしとも見ざりけるを、いとよく生ひ出でにければ、かの男、心をつけて、「いかならむ折に、ものを言はむ」と思ふに、若菰(わかこも)のあるを、女、取りまさぐりけるを見て、   沼水に君は生ひねど刈る菰の目に見す見すも生ひまさるかな 女、返し。   刈る菰の目に見る見るぞうとまるる心浅香の沼に見ゆれば とは言ふものか。 ===== 翻刻 ===== かくことはそやまたこのをとこひとつを のいゑにいとこともそよき女とんにてある はしめはよろしともみさりけるをいとよく おひいてにけれはかのおとこ心おつけて いかならんをりにものをいはんとおもふにわかこ ものあるを女とりまさくりけるをみて ぬま水にきみはおひねとかるこものめに 見す見すもおひまさるかな 女かへし かるこものめにみるみるそうとまるるここ ろあさかのぬまにみゆれは/58オ とはいふものかまたこのをとこいちといふ所に/58ウ