平中物語 ====== 第31段 またこの男人ともの言ひけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、人ともの言ひけり。ことに心に入れても思はぬことなれば、言ひさして、ものも言ひやらでありければ、女、「などか訪れぬ」と言ひけり。   祝部(はふりべ)の注連(しめ)やかき分けいひてけむ言の葉をさへわれに忌まるる 男、返し。   木綿襷(ゆふだすき)かけてはつねに思へども問ふ言忌(こといみ)の注連はいはぬを さて、すさびてやみにけり。 ===== 翻刻 ===== となむかへしまさりなりける又このをとこ 人とものいひけりことにこころにいれても思は ぬことなれはいひさしてものもいひやらてあり/46オ けれは女なとかおとつれぬといひけり はうりへのしめやかきわけいひてけん ことの葉をさへ我にいまるる おとこかへし ゆふたすきかけてはつねにおもへとも とふこといみのしめはいはぬを さてすさひてやみにけり又このおとこい/46ウ