平中物語 ====== 第23段 またこの男知れる人ありけりそれにこの男久しくえ会はぬ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、知れる人ありけり。それに、この男、「久しくえ会はぬ。来(こ)」など言ひやりたれば、いとをかしき友達ぞ率(ゐ)て来たりける。 この率て来たりける友達、「送りはしつ。今は帰りなむ」と言ひければ、「今宵ばかりは、今宵ばかりは((衍文か。))、なほ留まり給ひね」。「あな、むくつけ。こは何しに」と言ふものから、言ひたる。   難波潟(なにはがた)おきても行かむ葦田鶴(あしたづ)の声ふり出でてなきも留めよ 男、返し。   難波江の潮満つまでになく田鶴をまた行かなればおきて行くらむ 「あな、そらごと。露だに置かざめるものを」とは言ひけれど、いかがありけん。その夜留まりにけり。のち、いかがなりにけむ。 ===== 翻刻 ===== やみにけり又このおとこしれる人ありけ りそれにこのおとこひさしくえあはぬこ なといひやりたれはいとをかしきともたち そゐてきたりけるこのゐてきたりけ るともたちおくりはしついまはかへりなむと いひけれはこよひはかりはこよひはかりは なをととまりたまひねあなむくつけこは/29ウ なにしにといふものからいひたる なにはかたおきてもゆかんあしたつの こゑふりいててなきもととめよ おとこかへし なにはえのしほみつまてになく たつをまたいかなれはおきてゆくらん あなそらこと露たにおかさめるものを とはいひけれといかかありけんその夜と とまりにけりのちいかかなりにけん又/30オ