平中物語 ====== 第19段 またこの男の家には前栽好みて作りければ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男の家には、前栽好みて作りければ、おもしろき菊など、いとあまたぞ植ゑたりける。間をうかがひて、月のいと明きに、女ども集り来て、前栽どもなど見て、花の中にいと高きにぞ付けて言ひける。   行き難(が)てにむべしも人はすだきけり花は花なる宿にぞありける とてぞ、みな帰りける。 さりければ、この男、「もし、来て取りもやする」とて、花の中に立ててぞ、   わが宿の花は植ゑしに心あれば守る人なみ人となすにて とぞ、書きて立てりける。 「取りにや来る」と、うかがはせ((底本「せ」なし。))けれど、たゆみたるにぞ、取りてける。口惜しく、知らせでやみにけり。 ===== 翻刻 ===== なく人のいゑとうしにそなりにける又この おとこのいゑにはせんさいこのみてつくり けれはおもしろききくなといとあまた そうゑたりけるまをうかかひて月のい とあかきに女とんあつまりきてせんさいとも なと見てはなのなかにいとたかきにそ/25ウ つけていひける ゆきかてにむへしも人はすたきけり はなは花なるやとにそありける とてそみなかへりけるさりけれはこの男 もしきてとりもやするとてはなのなかに たててそ わかやとのはなはうゑしに心あれはま もる人なみひととなすにて とそかきてたてりけるとりにやくるとう かかはけれとたゆみたるにそとりて けるくちをしくしらせてやみにけり又/26オ