平中物語 ====== 第16段 またこの男もののたよりに聞きわたる人ありけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、もののたよりに、聞きわたる人ありけり。「その人ぞ((「ぞ」は衍字か。))」とは、この男にもの 言ふ人は友達にて、「もの何にても言ひわづらひ、まめやかに男のために苦しかるべきことを言ふ」と聞きて、からうじて言ひつきにけり。 さて、ほどなく会ひにけり。さて、つとめて、女。   音にのみ人のわたると聞きし瀬をわれも逃れずなりにけるかな 返し、男。   渡り川いかでか人の逃るべき音にのみやは((影印「は」見えず。))聞かむと思ひし とぞ言ひける。のちはいかがなりにけむ。 ===== 翻刻 ===== 又このおとこもののたよりにききわたる人 ありけりその人そとはこのおとこにもの いふ人はともたちにてものなににてもいひ わつらひまめやかにおとこのためにくるしかるへ きことをいふとききてからうしていひつきに けりさてほとなくあひにけりさてつとめて女/21ウ をとにのみ人のわたるとききしせを我 ものかれすなりにけるかな かへしおとこ わたりかはいかてか人ののかるへきおとにのみや きかむとおもひし とそいひけるのちはいかかなりにけん又この/22オ