平中物語 ====== 第13段 この男言ひすさびにけるに□□□なりにけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== この男、言ひすさびにけるに、□□□((底本、三字程度判読不能。「七月に」(萩谷朴)・「女はかなう」(目加田さくを)などの説がある。))なりにけり。 さりければ、七日に河原に行きて遊びけるに、この男、夢ごと会ひて、見もえ会はせで、言(こと)のかよひは時々言ひかよはす人の車ぞ来て、河原に立ちにける。供なる人々、見て言ふを聞きて、男、「かう近きことの嬉しきこと。これをば天の川となん思ひぬる」など言ひはせて、男、   彦星に今日はわが身をなしてしが暮れなば天の川渡るべく と言はせたれば、((「言はせたれば」は、底本「い□せたれは」または、「いひ□せたれは」。))女、見には見て、つつむ人などやありけん、「ただ暮れなば、かしこにを」と言ひて、去(い)にけり。 されば、「日や暮るる」と、いつしか行きて会ひにけり。 またのつとめて、男。   天の川今宵も渡る瀬もやあると雲の空にぞ身はまどふべき 返し、女。   七夕の会ふ日に会ひて天の川誰によりてか瀬を求むらむ と言へり。 いたく人につつむ人なりければ、「わづらはし」とて、男、やみにけり。 ===== 翻刻 ===== とのみいひやりてやみにけりこのおとこ いひすさひにけるに□□□なりにけりさり けれは七日にかはらにゆきてあそひけるに このおとこゆめことあひて見もえあはせて ことのかよひはときときいひかよはす人の車そ きてかはらにたちにけるともなる人々みて いふおききてをとこかうちかきことのうれし きことこれをはあまのかはとなんおもひぬる なといひはせておとこ ひこほしにけふはわか身をなしてしか くれなはあまのかはわたるへく/19ウ とい□せたれは女見にはみてつつむ人なとや ありけんたたくれなはかしこにをといひて いにけりされはひやくるるといつしかいきて あひにけり又のつとめておとこ あまのかはこよひもわたるせもやあると くものそらにそ身はまとふへき かへし女 たなはたのあふひにあひてあまの河 たれによりてかせをもとんらむ といへりいたく人につつむ人なりけれはわつら はしとてをとこやみにけり又このおなしをとこ/20オ