平中物語 ====== 第4段 またこの同じ男この二年ばかりもの言ひすさぶる人ぞありける・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この同じ男、この二年(ふたとせ)ばかり、もの言ひすさぶる人ぞありける。「いかで、なほ対面せむ」といふ心ぞ、せちにありける。 返り事に、女、かくなむ。   わたつ海の底にあれたるみるめをば三年(みとせ)漕ぎてぞ海人(あま)は刈りける 男、返し   うらみつつ春三返りを漕がむ間に命絶えずはさてややみなん かかるほどに、この男、「死ぬべく病みてなむ」と告げければ、問はでやみにければ、さて、やみにけり。 ===== 翻刻 ===== おもひてやみにけり又このおなし男 このふたとせはかりものいひすさふる人 そありけるいかてなをたいめんせむ といふこころそせちにありける返ことに女 かくなん/10ウ わたつうみのそこにあれたるみるめを はみとせこきてそあまはかりける おとこかへし うらみつつはるみかへりをこかむまにいの ちたえすはさてややみなん かかるほとにこのおとこしぬへくやみて なむとつけけれはとはてやみにけれは さてやみにけり又このおとこ正月のついたち/11オ