[[index.html|古今著聞集]] 魚虫禽獣第三十 ====== 684 嘉保二年八月十二日殿上の男ども嵯峨野に向ひて虫を捕りて奉るべきよし・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 嘉保二年八月十二日、殿上の男(をのこ)ども、嵯峨野に向ひて虫を捕りて奉るべきよし、勅(みことのり)ありて、むらごの糸にてかけたる虫の籠(こ)をくだされたりければ、貫首(くわんじゆ)以下みな左右の馬寮(めれう)の御馬に乗りて向ひけり。 蔵人弁時範((平時範))、馬の上にて題を奉りけり。「野径尋虫(野径に虫を尋ぬ)」とぞ侍りける。野中に至りて、僮僕を散らして虫をば捕らせけり。十余町ばかりは、おのおの馬より下り、歩行せられけり。夕に及びて、虫をとりて籠に入れて内裏へ帰り参る。萩・女郎花などをぞ籠には飾りたりける。 中宮((堀河天皇中宮篤子内親王))の御方へ参らせて後、殿上にて盃酌・朗詠などありけり。歌は宮の御方にてぞ講ぜられける。簾中よりも出だされたりける、やさしかりけることなり。 ===== 翻刻 ===== 嘉保二年八月十二日殿上のおのことも嵯峨野に向 て虫をとりてたてまつるへきよしみことのりあり てむらこの糸にてかけたる虫の籠をくたされ たりけれは貫首以下みな左右馬寮の御馬に乗 てむかひけり蔵人弁時範馬のうへにて題をた てまつりけり野径尋虫とそ侍ける野中にいた りて僮僕をちらして虫をはとらせけり十余町 はかりは各馬よりおり歩行せられけり夕に及て 虫をとりて籠に入て内裏へかへりまいる萩女郎花 なとをそ籠にはかさりたりける中宮御方へまいら せて後殿上にて盃酌朗詠なとありけり哥は/s535l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/535 宮御方にてそ講せられける簾中よりもいたされ たりけるやさしかりける事也/s536r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/536