[[index.html|古今著聞集]] 飲食第二十八
====== 619 知足院殿中納言の時当院にましまして中納言に箏を習はせ給ひける時・・・ ======
===== 校訂本文 =====
知足院殿((藤原忠実))、中納言の時、当院にましまして、中納言(宗輔)((藤原宗輔。ただし、藤原宗俊とあるべきところ。))に箏を習はせ給ひける時、辰刻より申に至るまで他事なかりけり。
その時、盃饌をまうけられて、納言((宗輔))に勧められけり。源中納言国信卿((源国信))、その時殿上人にて、亭主の陪膳しけり。政長朝臣((源政長))、納言の饌をすゑけり。道良朝臣((源道良))、瓶子をとる。亭主、盃を納言にさし給ふ。納言、盃給はりて飲まむとする時、道良朝臣、「人参れや」と呼びて、銚子を他人にゆづらんとす。すなはち、清実((藤原清実))・盛長((源盛長))・有賢((源有賢))等参る。
その時、納言のいはく、「今日は((「今日は」は底本「今見」。諸本により訂正。))御師匠を饗応せらるる日なり。道良、なんぞ瓶子を他人にゆずるべきや」。道良、「もつともしかり」とて、勧めければ、納言うち笑ひ愛して飲まれけり。人々見て、「あはれ、したり顔なる人かな。なほ家の子なり」とぞ言ひける。道良、およずけものなり。
京極大殿((藤原師実))に、堀川左府((源俊房))、六条右府((源顕房))、中宮大夫(師忠)((源師忠))など、常に参ぜられて盃酌のありける時も、殿下((藤原師実))の前のほかは、一度も他人の瓶子には寄らざりけり。有賢等にぞゆづりける。
===== 翻刻 =====
知足院殿中納言のとき当院にましまして中納言(宗輔)
に箏をならはせたまひけるとき辰剋より申に
いたるまて他事なかりけり其時盃饌をまうけられ
て納言にすすめられけり源中納言国信卿其時殿上
人にて亭主の陪膳しけり政長朝臣納言の饌を
すへけり道良朝臣瓶子をとる亭主盃を納言に/s489l
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さしたまふ納言盃たまはりてのまむとするとき道
良朝臣人まいれやとよひて銚子を他人にゆつらんと
す即清実盛長有賢等まいるそのとき納言の
いはく今見御師匠を饗応せらるる日也道良なん
そ瓶子を他人にゆつるへきや道良尤然とてすすめ
けれは納言うちわらひあひしてのまれけり人々見て
あはれしたりかほなる人かななを家子なりとそ
いひける道良およすけものなり京極大殿に堀
川左府六条右府中宮大夫(師忠)なとつねに参
せられて盃酌のありけるときも殿下の前の
ほかは一度も他人の瓶子にはよらさりけり有賢等/s490r
にそゆつりける/s490l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/490