[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五
====== 567 前隠岐守永親が親しき者に左衛門尉なにがしとかやいふ者ありけり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
前隠岐守永親が親しき者に、左衛門尉なにがしとかやいふ者ありけり。永親が家とこの主(ぬし)が家と、向ひ合はせにて近かりければ、常に行き通ひけり。
つとめてとく、ただ一人、永親がもとへ行きけるほどに、忘れて烏帽子(えぼうし)をもせで、髻(もとどり)放ちながら門を歩み入りけるを、人々見て、「不思議のことかな」と笑ひ合ひけれども言葉に言ふことなければ、わがこととは思ひも寄らであるほどに、朝日の影に髻の映りて見えけるに、はじめて悟りて、頭(かしら)をさぐるに烏帽子なかりければ、あはてまどひて、走り帰りにけり。
後ろ姿・面影、さこそをかしかりけめ。
===== 翻刻 =====
前隠岐守永親かしたしきものに左衛門尉なにかし
とかやいふ物ありけり永親か家と此主か家と向
あはせにてちかかりけれはつねに行かよひけりつ
とめてとくたた独永親かもとへ行ける程にわす
れてゑほうしをもせてもととりはなちなから門
をあゆみ入けるを人々見てふしきの事かなと
わらひあひけれともこと葉にいふ事なけれはわか
事とは思もよらてある程に朝日のかけにもととり
のうつりて見えけるにはしめてさとりてかし
らをさくるにゑほうしなかりけれはあはてまとひ/s448r
てはしりかへりにけりうしろすかたおもかけさこそ
をかしかりけめ/s448l
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