[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五 ====== 566 天福のころある上達部嵯峨の辺に造作せむとて見歩きけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 天福のころ、ある上達部、嵯峨の辺に造作せむとて見歩(あり)きけるに、大覚寺の池の辺にて破子(わりご)をひらきたりける所を、老僧の杖にすがりたる、一人通りけり。件(くだん)の僧を呼び寄せて、その辺のことども尋ねければ、えもいはず細かに答へければ、「いと興ある僧なり」とて、酒を勧めければ、断酒のよしを言ひて飲まず。「さらば」とて、破子を一合与へければ、今日は斎(とき)にてあるよしを言ひて食はず。 「さらば、後々に必ず参れ。得意になりて、嵯峨の案内者に頼まむ」など言ひて、「家はいづくぞ、また名をば何といふぞ」と問ひてければ、老僧の言ひけるは、「この辺の人は、左府入道((藤原隆忠))とこそ申し侍れ」と答ふるに、この公卿あさみまどひて、破子の沙汰にも及ばず、逃げにけり。 ===== 翻刻 ===== 天福の比或上達部嵯峨辺に造作せむとて見 ありきけるに大覚寺の池辺にて破子をひら/s447r きたりける所を老僧の杖にすかりたる一 人とをりけり件僧をよひよせて其辺の事 とも尋けれはえもいはすこまかにこたへけれは いと興ある老僧なりとて酒をすすめけれは 断酒のよしをいひてのますさらはとて破子を 一合あたへけれはけふはときにてあるよしをいひ てくはすさらは後々に必まいれとくいになりて嵯 峨の案内者にたのまむなといひて家はいつく そ又名をは何といふそととひてけれは老僧のいひ けるは此辺の人は左府入道とこそ申侍れと こたふるに此公卿あさみまとひて破子の沙汰にも/s447l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/447 をよはすにけにけり/s448r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/448