[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五 ====== 565 橘蔵人大夫有季入道のもとに年ごろの青侍ありけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 橘蔵人大夫有季入道((橘有季))のもとに、年ごろの青侍ありけり。一期不運にてやみにけり。 無食(むじき)にて両三日経にければ、存命もほとんど危なく覚えける飢饉の年、たまたま吹田荘より給物(きふもつ)持て来たりけり。うちまかせては喜び騒ぎて取り入るべきに、「日の悪(わろ)ければ、良からん日こそ納めめ」とて、隣の家にやどし置きて、また両三日の日をむなしく過ぐしけり。とかくいふばかりなきありさまなり。 件(くだん)の男、鞍馬の月詣でをしけり。すべてもつてのほかの苦行者((「苦行者」は底本「吉行者」。諸本により訂正。))なりけり。ある日、有季入道言ふべきことありて尋ねければ、鞍馬へ参りて((「参りて」は底本「て」なし。諸本により補う。))候はぬよし言ひければ、「よしよし、ただ今毘沙門の福賜はらんずれば、有季が小恩、物の数ならじ」とて、吹田の給物をとどめてけり。その後、憂悲苦悩することかぎりなかりけり。 ===== 翻刻 ===== 橘蔵人大夫有季入道のもとに年比の青侍あり けり一期不運にてやみにけり無食にて両 三日へにけれは存命も殆あぶなくおほえける飢 饉の年たまたま吹田庄より給物もてきたり けりうちまかせてはよろこひさはきてとりいるへ/s446l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/446 きに日のわろけれはよからん日こそおさめめとて 隣の家にやとしをきて又両三日のひをむなし くすくしけりとかくいふはかりなきありさま也件男 鞍馬の月まうてをしけりすへて以外の吉行者 なりけり或日有季入道いふへき事ありて 尋ねけれは鞍馬へまいり候はぬよしいひけれは よしよし只今毘沙門の福たまはらんすれは有季 か小恩物の数ならしとて吹田の給物をととめて けり其後憂悲苦悩する事限なかりけり/s447r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/447