[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五
====== 534 進士志定茂といふ侍学生ありけり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
進士志(しんじのさくわん)定茂といふ侍学生ありけり。ある人の供に有馬の湯へ行くとて、行縢(むかばき)((「行縢」は底本「行騰」。諸本により訂正。))を人に借りたりけるに、一懸け貸したりけるを見て、「二つまで貸したる、過分なり」とて、片方をば返して、その暁になりて、片皮に左右の足を入れて馬に乗らむとしけるに、なじかは乗られん。あひにあひたる下人ありて、押し乗せけれども、かなはず。
かく乗りわづらふほどに、人見あひて、「あれはいかに」と言ひ笑ひける折、はじめて悟りにけるをこがましさよ。
===== 翻刻 =====
進士志定茂といふ侍学生ありけり或人のともに有馬
の湯へ行とて行縢を人にかりたりけるに一懸か
したりけるを見て二まてかしたる過分なりとて片
方をはかへして其暁になりてかた皮に左右の足を
入て馬にのらむとしけるになしかはのられんあひに
あひたる下人ありてをしのせけれともかなはすかく
のりわつらふほとに人見あひてあれはいかにといひ
わらひけるをりはしめてさとりにけるおこかましさよ/s423r
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/423