[[index.html|古今著聞集]] 蹴鞠第十七 ====== 411 宇治の左府法成寺に参籠せさせ給ひたりける時・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 宇治の左府((藤原頼長))、法成寺に参籠せさせ給ひたりける時、片岡の禰宜成房に仰せて、切立(きりたて)せられて、鞠のために家平((賀茂家平))召されけり。 執行(某)、鞠二つ参らせたりけるを、左府、家平を召して、この鞠二つが善悪をえられけり。家平申しけるは、「一つは良く候ふ。一つは二重鞠にて候ふ」と申しけるを、左府、「中を見ずして二重鞠と申すこと不審なり。その鞠を上ぐべきなり」と仰せられければ、すなはち件(くだん)の鞠を上ぐるに、両三度上がりて、枝に当たりて裂けぬ。これを見るに、古き鞠の上に薄き皮を覆ひたりけり。 左府・徳大寺((藤原実能))の大臣(おとど)両人の御前にこれを召し寄せて御覧ずるに((「御覧ずるに」は底本「からんするに」。諸本により訂正。))まことに二重なりけり。大臣しきりに感じ給ひけるとなん。 ===== 翻刻 ===== 宇治左府法成寺に参籠せさせ給たりける時片岡 禰宜成房に仰て切立せられて鞠のために家平 めされけり執行某鞠二まいらせたりけるを左府 家平をめして此鞠二か善悪をえられけり家 平申けるは一はよく候一は二重鞠にて候と申けるを 左府中をみすして二重鞠と申事不審なり 其鞠をあくへきなりとおほせられけれは則件鞠 をあくるに両三度あかりて枝にあたりてさけぬこれ/s312l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/312 をみるにふるき鞠のうへに薄き皮をおほひたり けり左府徳大寺のおとと両人の御まへに是を召寄て からんするに実に二重なりけりおとと頻に感し 給けるとなん/s313r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/313