[[index.html|古今著聞集]] 画図第十六 ====== 395 鳥羽僧正は近き世には並びなき絵書きなり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 鳥羽僧正((覚猷))は近き世には並びなき絵書きなり。法勝寺金堂の扉の絵書きたる人なり。 いつほどのことにか、供米(くまい)の不法のことありける時、絵に描かれけり。辻風の吹きたるに、米の俵を多く吹き上げたるが、塵灰(じんくわい)のごとくに空に上がるを、大童子・法師ばら走り散りて、取りとどめんとしたるを、さまざまおもしろう筆をふるひて描かれたりけるを、誰かしたりけん、その絵を院((白河法皇か。))御覧じて、御入興ありけり。 その心を僧正に御尋ねありければ、「あまりに供米不法に候ひて、まことの物は入り候はで((「候はで」は底本「候はん」。諸本により訂正。))、糟糠(さうかう)のみ入りて、軽(かろ)く候ふゆゑに、辻風に吹き上げられしを、『さりとては』とて、小法師ばらが取りとどめんとし候ふが、をかしう候ふを、書きて候ふ」と申されければ、「此興のことなり」とて、それより供米の沙汰厳しくなりて、不法のことなかりけり。 ===== 翻刻 ===== 鳥羽僧正はちかき世にはならひなき絵書なり法 勝寺金堂の扉の絵書たる人なりいつほとの事 にか供米の不法の事ありける時絵にかかれけり辻風 の吹たるに米の俵をおほく吹上たるか塵灰の/s298l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/298 ことくに空にあかるを大童子法師原はしりちりてとり ととめんとしたるをさまさまおもしろう筆をふるひ てかかれたりけるをたれかしたりけんその絵を院御 覧して御入興ありけり其心を僧正に御尋あり けれはあまりに供米不法に候て実の物は入候はん糟糠 のみ入てかろく候故に辻風に吹上られしをさりとて はとて小法師原かとりととめんとし候かおかしう候を書 て候と申されけれは此興の事なりとてそれより 供米の沙汰きひしくなりて不法の事なかりけり/s299r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/299