[[index.html|古今著聞集]] 術道第九
====== 297 九条大相国浅位の時何となく后町の井を立ち寄りて底をのぞきけるほどに・・・ ======
===== 校訂本文 =====
九条大相国((藤原伊通))、浅位の時、何となく后町(きさいまち)((常寧殿))の井を、立ち寄りて底をのぞきけるほどに、丞相の相見えける。嬉しく思して、帰り給ひて、鏡を取りて見給ひければ、その相なし。「いかなることにか」とおぼつかなくて、また大内に参りて、かの井をのぞき給ふに、先のごとくこの相見えけり。
その後、静かに案じ((「案じ」は底本「ありし」。諸本により訂正。))給ふに、「鏡にて近く見るには、その相なし。井にて遠く見るには、その相あり。このこと、大臣にならんすること遠かるべし。つひにはむなしからじ」と思ひ給ひけり。はたして、はるかにほど経てなり給ひにけり。
この大臣(おとど)は、ゆゆしき相人にておはしましけり。宇治の大臣((藤原頼長))も、わざと相せられさせ給ひけるとかや。
===== 翻刻 =====
九条大相国浅位の時なにとなく后町の井を立よりて/s207l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/207
底をのそきけるほとに丞相の相みえけるうれしく
おほして帰たまひて鏡をとりてみ給けれはその相
なしいかなる事にかとおほつかなくて又大内にまいりて
彼井をのそき給にさきのことく此相みえけりその
後しつかにありしたまふに鏡にてちかくみるにはその相な
し井にて遠くみるには其相ありこの事大臣にな
らんする事とをかるへしつゐにはむなしからしと思
給けりはたしてはるかにほとへて成給にけりこの
おととはゆゆしき相人にておはしましけり宇治のおとと
もわさと相せられさせ給けるとかや/s208r
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/208