[[index.html|古今著聞集]] 和歌第六 ====== 187 中納言通俊卿の子に世尊寺阿闍梨仁俊とて顕密知法にて尊き人おはしけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 中納言通俊卿((藤原通俊))の子に、世尊寺阿闍梨仁俊とて、顕密知法にて尊き人おはしけり。鳥羽院((鳥羽天皇))に候ひける女房、「仁俊は女心あるものの、そら聖(ひじり)だつる」など申しけるを、阿闍梨かへり聞きて、口惜しく思ひて、北野((北野天満宮))に参籠して、「この恥すすぎ給へ」とて、   あはれとも神々ならば思ひ知れ人こそ人の道を断つとも と詠みたりければ、かの女房((「女房」は底本「如房」。諸本により訂正。))、赤き袴ばかりを着て、手に錫杖を持ちて、「仁俊に虚言(そらごと)言ひつけたる報ひよ」とて、院の御前に参りて、舞ひ狂ひければ、「あさまし」と思し召して、北野より仁俊を召し出だして見せられければ、神恩のあらたなることに涙を流して、一度(ひとたび)慈救呪をみてければ、女房、もとの心地になりにけり。院、いみじく思し召して、薄墨(うすずみ)といふ御馬を賜びてけり。 ===== 翻刻 ===== 中納言通俊卿子に世尊寺阿闍梨仁俊とて顕密知法にて たうとき人をはしけり鳥羽院にさふらひける女房仁俊は 女心あるもののそらひしりたつるなと申けるを阿闍梨かへり ききて口惜く思て北野に参籠して此恥すすき給へとて  あはれとも神々ならは思しれ人こそ人のみちをたつとも とよみたりけれはかの如房あかきはかまはかりをきて手に錫 杖をもちて仁俊にそらこといひつけたるむくひよとて院の 御前にまいりて舞くるひけれはあさましとおほしめし て北野より仁俊をめし出して見せられけれは神恩の あらたなる事に涙をなかして一たひ慈救呪をみて/s137l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/137 けれは女房もとの心ちになりにけり院いみしくおほしめし てうすすみといふ御馬をたひてけり/s138r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/138