[[index.html|古今著聞集]] 和歌第六
====== 168　御堂関白大井川にて遊覧し給ひし時詩歌の船を分かちて・・・ ======

===== 校訂本文 =====

御堂関白((藤原道長))、大井川にて遊覧し給ひし時、詩歌の船を分かちて、おのおの堪能の人々を乗せられけるに、四条大納言((藤原公任))に仰せられていはく、「いづれの船に乗るべきぞや」と。大納言いはく、「和歌の船に((底本「に」なし。諸本により補う。))乗るべし」とて乗られにけり。さて詠める。

　　朝まだき嵐の山の寒ければ散るもみぢ葉を着ぬ人ぞなき

後に言はれけるは、「『いづれの船に乗るべきぞ』と仰せられしこそ、心おごりせられしか。詩の船に乗りて、これほどの詩を作りたらましかば、名は上げてまし」と後悔せられけり。

この歌、花山院((花山天皇))、拾遺集((拾遺和歌集))を撰ばせ給ふ時、「紅葉の錦」と変へて入るべきよし仰せられけるを、大納言、しかるべからざるよし申されければ、もとのままにて入りにけり。円融院((円融天皇))、大井川逍遥の時、三船に乗るものありけり。

===== 翻刻 =====

  御堂関白大井河にて遊覧し給し時詩哥の舟をわかちて
  各堪能の人々をのせられけるに四条大納言に仰られていはく
  いつれの舟にのるへきそやと大納言いはく和哥の船乗へし
  とて乗られにけりさてよめる
  　朝またき嵐の山のさむけれはちるもみちはをきぬ人そなき
  後にいはれけるはいつれの舟にのるへきそとおほせられしこそ
  心おこりせられしか詩の舟に乗てこれ程の詩を作たらまし
  かは名はあけてましと後悔せられけり此哥花山院拾遺集／s125l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/125

  をえらはせ給ふとき紅葉の錦とかへて入へきよし仰られける
  を大納言しかるへからさるよし申されけれはもとのままにて入にけり
  円融院大井川逍遥の時三船にのるものありけり／s126r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/126