[[index.html|古今著聞集]] 文学第五 ====== 141 天暦の御時橘直幹が民部大輔を望み申しける申文を・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 天暦の御時、橘直幹が民部大輔を望み申しける申文を、草をばみづから書きて、小野道風に清書せさせけり。御門((村上天皇))、叡覧ありければ、「依人而異事。雖似偏頗代天而授官。誠懸運命。(人に依りて事を異にす。偏頗に似たりといへども天に代りて官を授く。誠に運命に懸る。)」など、述懐の言葉を書きすぐせるによりて、御気色悪しかりけり。 人、これを恐れ思ふところに、その後、内裏の焼亡(ぜうまう)ありて、にはかに中院へ御幸(みゆき)せさせ給ひけるに、代々の御わたりもの、御倚子(ごいし)・時簡(ときのふだ)・玄象(げんじやう)・鈴鹿、以下持(も)て参りたるを御覧じて、「直幹が申文は取り出でたるや」と御尋ねありける、時の人、いみじきことにぞ申しける。 ===== 翻刻 ===== 天暦御時橘直幹か民部大輔をのそみ申ける申 文を草をはみつからかきて小野道風に清書せさせ けり御門叡覧ありけれは  依人而異事雖似偏頗代天而授官誠懸運命 なと述懐の詞をかきすくせるによりて御け色あし かりけり人これをおそれおもふ処に其後内裏焼亡あり て俄に中院へ御ゆきせさせ給けるに代々の御わたり もの御倚子時簡玄象鈴鹿以下もてまいりたるを 御覧して直幹か申文はとりいてたるやと御尋ありける 時の人いみしき事にそ申ける/s105r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/105