[[index.html|古今著聞集]] 文学第五 ====== 123 勧学院の学生ども集まりて酒宴しけるにおのおの議しける・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 勧学院の学生(がくしやう)ども、集まりて酒宴しけるに、おのおの議しける。「年歯(としは)・座次(ざなみ)をもいはず、才の次第に座には着くべし((「着くべし」は底本「着つし」。諸本により訂正。))」と定めてけり。 しかるを、隆頼((惟宗隆頼))、進みて着きてけり。傍輩(はうばい)ども、「さうなくは、いかに着くぞ」と言ひければ、隆頼、答へけるは、「『文選』三十巻・四声の『切韻』、暗誦の者あらば、すみやかに隆頼ゐ下るべし」と言ひたりけるに、傍輩ども、みな口を閉ぢて、あへて言ふことなかりけり。 この隆頼は無双の才人なりけり。学頭になりたりけり。学問料を心にかけてのぞみけれども、つひにかなはざりけり。 申文に、  対夏暦押甲子、老自淮陽((「淮陽」は底本「准陽」。文脈により訂正。))之一老。 夏暦に対して甲子を押せば、准陽の一老より老ゆ。  取明鏡見鬢鬚((底本、「鬚」に「眉イ」と異本注記。))、皓自商山之四皓。 明鏡を取りて鬢鬚を見れば、商山の四皓より皓(しろ)し。 と書きたる者なり。この句、ことなる秀句にて、人口にあるものなり。 ===== 翻刻 ===== 勧学院の学生ともあつまりて酒宴しけるにをのをの/s95l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/95 儀しける年歯座次をもいはす才の次第に座には着 つしとさためてけりしかるを隆頼すすみてつきてけり 傍輩とも左右なくはいかにつくそといひけれは隆頼こたへ けるは文選三十巻四声の切韻暗誦のものあらはすみ やかに隆頼ゐくたるへしといひたりけるに傍輩とも みな口をとちてあへていふことなかりけりこの隆頼は無 双の才人なりけり学頭になりたりけり学問料を 心にかけてのそみけれともつゐにかなはさりけり申文に 対夏暦押甲子老自准陽之一老取明鏡見鬢鬚(眉イ) 皓白商山之四皓と書たる者也此句ことなる秀句 にて人口にあるものなり/s96r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/96