[[index.html|古今著聞集]] 神祇第一 ====== 30 前大和守藤原重澄は賀茂につかうまつりて大夫尉までのぼりたるものなり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 前大和守藤原重澄は、賀茂((賀茂神社))につかうまつりて、大夫尉までのぼりたるものなり。若かりける時、「兵衛尉になり侍らん」とて、当社の土屋を造進したりけり。厳重の成功(ぢやうごう)にて、社家(しやけ)推挙しければ、外(はづ)るべきやうもなかりけるに、たびたびの除目(ぢもく)に漏れにけり。 重澄が上社(かみやしろ)の師にて侍りけるものに申し付けて、除目の夜、祈請せさせけるほどに、まどろみたる夢に、稲荷((伏見稲荷))より御使(みつかひ)とて参りたる者あり。人、出で合ひてこれを聞くに、かの御使の申しけるは、「重澄が所望、ことさらに任ぜらるべからず。わが膝元にて生まれながら、われを忘れたるものなり」と申しければ((「申しければ」は底本「申けられは」。「ら」の衍字とみて削除。))、申し次ぎの人、大明神に申し入るるよしにて、たびたび御問答ありける、「されば、このたびばかりなされずして、思ひ知らせて、後のたびの除目になさるべし」と申しければ、御使帰りぬ。 師、驚きて、急ぎ重澄がもとへ行きて、このよしを語りて、驚き怪しむほどに、その夜の除目には外れにけり。 この夢のまことを知らんがために稲荷へ参りて、次のたびの除目には申しも出ださざりけれども、相違なくなされにけり。 ===== 翻刻 ===== 前大和守藤原重澄は賀茂につかうまつりて大夫尉ま てのほりたるものなり若かりける時兵衛尉に成侍らんとて 当社の土屋を造進したりけり厳重の成功にて社家 推挙しけれははつるへきやうもなかりけるに度々の除目 にもれにけり重澄か上社の師にて侍けるものに申付て 除目の夜祈請せさせける程にまとろみたる夢に稲荷 より御使とてまいりたるものあり人出合て是を聞に かの御使の申けるは重澄か所望ことさらに任せらるへ/s26l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/26 からす我ひさもとにてむまれなから我を忘たるものなり と申けられは申つきの人大明神に申いるるよしにて たひたひ御問答ありけるされはこのたひ斗なされすし て思しらせて後のたひの除目になさるへしと申けれ は御使帰ぬ師驚ていそき重澄かもとへ行て此由を かたりておとろきあやしむほとに其夜の除目にははつれ にけり此夢の誠をしらんかために稲荷へまいりてつき のたひの除目には申も出ささりけれとも相違なくなされに けり大夫史淳方若かりける時常に賀茂へまいりけり式夜/s27r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/27