[[index.html|古今著聞集]] 神祇第一
====== 24 誰と聞き侍りしやらん名をば忘れにけり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
誰と聞き侍りしやらん、名をば忘れにけり。その人、八幡((石清水八幡宮))に参て通夜したりける夢に、御殿の御戸を押し開かせ給ひて、誠に気高き御声にて「武内((「武内」は底本「〃〃」に「武内」と傍注。武内宿禰を指す。))」と召しければ、則ち、御答(いら)へ申して参らせ給ふ。
その御体を見奉れば、高年白髪の俗形にまします。御装束は分明ならず。御前に畏まりて侍らひ給ふ。御髭白く長くして、御居長(ゐたけ)と等しかりけり。また、御殿の内より、先の御声にて、「世の中乱れなんとす。しばらく時政((北条時政))が子になりて、世を治むべし」と、仰せ出だされければ、「武内((底本「〃〃」))、唯称しておはします」と思ふほどに、夢覚めにけり。
この事を思ふに、されば義時朝臣((北条義時))はかの御後身にや。その子泰時((北条泰時))までも、人にあらざりけり。
世の中に麻は跡なくなりにけり心のままに蓬(よもぎ)のみして
この歌は、かの朝臣((北条泰時))の詠なり。思ひ合はせられて恥づかしくこそ侍れ。
===== 翻刻 =====
誰ときき侍しやらん名をは忘にけり其人八幡に参て
通夜したりける夢に御殿の御戸をおしひらかせ給て
誠にけたかき御声にて〃〃(武内)とめしけれは則御いらへ
申てまいらせ給其御体を見たてまつれは高年白髪の
俗形にまします御装束は分明ならす御前に畏て侍
らひ給御ひけしろくなかくして御居長とひとしかりけり又
御殿の内よりさきの御声にて世の中乱なんとすしはらく
時政か子に成て世をおさむへしと仰出されけれは〃〃唯
称しておはしますと思ふ程に夢覚にけり此事を思ふに
されは義時朝臣は彼御後身にや其子泰時まても人にあらさりけり
世中にあさは跡なく成にけり心のままによもきのみして/s24r
此謌は彼朝臣の詠也思あはせられてはつかしくこそ侍れ/s24l
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