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- 第71話 近代歌体
- 申し侍らむ。また、思はれんに従ひてことはらるべし。大方、この事を、人の水火のごとく思へるが、心も得ず思え侍るなり。すべて歌のさま、世々に異なり、昔は文字の数も定まらず、思ふさまに口に任せて言ひけり。かの出雲... み、人ごとに詠まれしかば、『この道ははやく底もなく、際(きは)もなきことになりにけり』と、怖しくこそ思え侍りしか。されば、いかにもこの体を心得る事は、骨法ある人の境(さかひ)に入り、峠を越えて後、あるべきこ... をばすべきことと知りて、あやしの賤(しづ)の女(め)などが、心にまかせて物ども塗り付けたらんやうにぞ思え侍りし。かやうの類(たぐひ)は、我とはえ作り立てず。人の詠み捨てたる詞を拾ひて、その様をまねぶばかりな... 幽玄の体、まづ名を聞くより惑ひぬべし。みづからも、いと心得ぬことなれば、定かに『いかに申すべし』とも思え侍らねど、よく境に入れる人々の申されし趣は、詮はただ、詞(ことば)に現はれぬ余情、姿に見えぬ景気なるべ
- 第17話 井手の山吹、并かはづ
- りしかど、その後、とかくまぎれて、いまだ尋ね侍らず」となん語り侍りし。 この事心にしみて、いみじく思え侍りしかど、かひなくて、三年(みとせ)にはなり侍りぬ。また、年長けては歩びかなはずして、思ひながら、い
- 第11話 せみのを川の事
- かる川やはある」とて、負けになり侍りにき。思ふ所ありて詠みて侍りしかど、かくなりにしかば、いぶかしく思え侍しほどに、「その度(たび)の判者、すべて心得ぬこと多かり」とて、また改めて顕昭法師に判ぜさせ侍りしと... ぞおぢて難ぜず侍りける。さりとも、『顕昭等が聞き及ばぬ名所あらむやは』と思ひて、ややもせば難じつべく思え侍りしかど、誰が歌とは知らねど、歌ざまのよろしく見えしかば、所おきてさやうに申して侍りしなり。これすで
- 第48話 静縁こけうたよむ事
- 予がいはく、「よろしく侍り。ただし『泣かれぬる』といふ詞(ことば)こそ、あまりこけ過ぎて、いかにぞや思え侍れ」と言ふを、静縁法師いはく、「その詞をこそこの歌の詮とは思ひ給ふるに、この難はことの外にこそ思え侍る」とて、「いみじく悪(わろ)く難ずる」と思ひげにて去りぬ。 「よしなく思ゆるままに物を言ひて、心すべか... りありて、また来たりて言ふやう、「一日の歌、難じ給ひしを、隠れごとなし、心得ず思ひ給へて、いぶかしく思え侍りしままに、さはいふとも、『大夫公のもとに行(ゆ)きてこそ、わが僻事(ひがごと)は切らめ((「わが」
- 第72話 俊恵定歌体事
- 「匡房卿歌に、 白雲と見ゆるにしるしみよしのの吉野の山の花盛りかも これこそはよき歌の本とは思え侍れ。させる秀句もなく、飾れる詞もなけれど、姿麗しく清げにいひ下して、たけ高く、遠白きなり。譬へば、白
- 第8話 頼政歌俊恵撰事
- かど、勝負聞かざりしほどは、あひなくよそにて胸つぶれ侍りしに、いみじき高名したり」となん、心ばかりは思え侍りし」とぞ、俊恵語り侍し。((底本、次の「イホノウキス」の本文が改行なく続くが、標題の位置を間違えた
- 第18話 関の清水
- の後(しりへ)になりて、当時は水の無くて、見所もなけれど、昔の名残、面影に浮かびて、優(いう)になん思え侍りし。阿闍梨語いはく、『この清水に向かひて、水より北に、薄檜皮(うすひわだ)葺(ふ)きたる家、近くま
- 第46話 依秀句心劣する事
- やうに思ふところありて続く方も侍りなん物を、さほど手づつにて、いかにして下の句をば思ひ寄りけるにかと思え侍るなり。 ===== 翻刻 ===== 依秀句心劣スル事 円玄阿闍梨といひし人の哥に
- 第56話 頼政歌道にすける事
- 、立居(たちゐ)起き臥しに風情をめぐらさずといふことなし。まことに秀歌の出で来るも理(ことわり)とぞ思え侍りし。かかれば、しかるべき時名上げたる歌ども、多くは擬作((底本「凝作」。諸本により訂正))にてあり
- 第45話 歌をいたくつくろへば必劣事
- (を)が返しもやらぬ小山田にさのみはいかが種を貸すべき これは直されたりけるにや。いみじうけ劣りて思え侍るなり。よくよく心すべきことにこそ。 ===== 翻刻 ===== 哥ヲイタクツクロヘハ必劣
- 第54話 近代会狼藉事
- がるにつけてもわざとびたり。げには人の心の底まで好かずして、ただ人まねに道を好む故(ゆゑ)なめりとぞ思え侍る」とぞ。 ===== 翻刻 ===== 近代会狼藉事 この比人々の会につらなりてみれは