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- 下第5話 初瀬の観音に月参りする女の事
- しく侍り。一期の夕べには蓮台捧(ささ)げ給ひて、深き御恵みあらむずらんかしと、頼もしく、かたじけなく思え侍り。 ===== 翻刻 ===== 中比東の京にたよりなきわかき女ありけりかた のや
- 下第11話 東山にて往生する女の童の事
- り。その中に、昔より、海のほとり、野の間、跡あまた見え侍れど、深山(みやま)の住居(すまゐ)ぞ澄みて思え侍る。されば、天竺・震旦(しだん)のかしこき跡を訪ぬれば、多くは深山の住居なりけり。 かかる数にもあ
- 下第10話 某の院の女房の釈迦仏を頼む事
- 少し心の付くかとするままに、ここかしこの浄土を求めて、教へ育み給へる御事を、さしおかんこと、いかがと思え侍り。 この釈迦如来の尊くありがたきこと、思ひ続くる折ごとに、思ほえず涙の落つること、いくそばくぞや... ごとく悲しみ、あはれみ給へば、彼等をうとうとしく思はば、仏の御心に遠ざかるかたもあるべしなと、様々に思え侍りき。 さても、この仏の御事の書きたく侍るままに、何となきことのついでを悦び侍りぬるにこそ。
- 上第3話 玄賓僧都、門をさして善珠僧正を入れぬ事
- ほ)の身一つ隠すべき結びてみ侍らばや。さてまた、住みにくくは、いづくにも行き隠るるぞかし」など、常に思え侍るなり。しかあるに、いまだここを離るべき時の至らぬにこそ侍るめれ、障るべきことのありとしもなき身の、
- 上第1話 真如親王、天竺に渡り給ふ事
- やまた、古き人の心も巧みに詞(ことば)もととのほりて記せらんを、今あやしけに引きなしたらむもいかがと思え侍り。 また、この書き記せる奥どもに、いささか天竺・震旦((底本「晨旦」))・日域((底本「域」に「
- 上第21話 唐橋河原の女の屍の事
- )の黛(まゆずみ)色鮮やかに描き、蜀江の衣(ころも)、匂ひなつかしう焚きなしたればこそ、むつまじくも思え侍らめ。風吹き、日曝(さら)し、皮みだれ、筋解けて、清き草葉を汚(けが)し、大空をさへ臭くなすときは、
- 上第17話 稲荷山の麓に日を拝みて涙を流す入道の事
- しなどしけり。ある時、訪ねさすれば、「跡形(あとかた)もなし」となん、語り侍りし。いといたうあはれに思え侍り。 いと細かにこそなけれども、おのづから日想観に当りて侍りけるにこそ。雨などの激しく降りけんに、
- 下第8話 建礼門女院の御庵に忍びの御幸の事
- ろ)めて、祈り奉れば、いかでか諸仏菩薩も納め給はざるべき。かかれば、これに過ぎたる善知識はなしとこそ思え侍れ」とぞ、申させ給ひける。 さて、夜も更け、月も傾(かたぶ)きにければ、御供の人も涙にしほれつつ、
- 下第2話 室の君、顕基に忘られて道心発す事
- になほ罪を添ふることにて侍るを、ひたすら思ひ忘れて、うき世を遁るる中だちとなしけんこと、いといみじう思え侍り。妙なりと見し人の、恨みの心に堪えずして、恐しき名を留めたることは、あがりてもあまた聞こゆるに、あ
- 上第8話 唖の真似をしたる上人の、まことの人に法文云ふ事
- べし。心ざしあらむ人、わざとかやうのこと知れらん人に尋ぬべし。 今、このあづまの僧の振舞、あはれに思え侍り。さても「観念・坐禅は、すでに世も下り、時も過ぎにたり」など言ふ人も侍るべし。必ずしもさは侍るまじ
- 上第2話 如幻僧都の発心の事
- の下に石を敷物のにて、檜笠と経袋とばかり置き給ひたる姿とぞ聞き侍りし。発心の始めより命終まで、澄みて思え侍り。 ===== 翻刻 ===== 昔如幻僧都といふ人をはしけりもとはならの京東 大寺に
- 上第15話 駿河の国、宇津の山に家居せる僧の事
- 尋ね行きて、「さても、僧の真似形(まねかた)にてかくは侍れど、まめやかに、いかにして世を出づべしとも思え侍らず。まことと思し定めたらむ道、一つ教へ給へ」と言ひければ、例の担ひたる物、うち担ひて、「太刀売らむ... くぞ侍りける。ある時は、人の家にもあり、ある時は、木の下にも居けり。その終りには、「このほど悩ましく思え侍れば」とて、人のもとを出でて、常の山の木陰に行きて、二日ばかりありて、西に向ひてぞ死にたりける。